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インド
(公開日:2019.10.08)

インド南部ケララ州の洪水から学ぶ7つの教訓

 
セ ーブ・ザ・チルドレン緊急保健医療ユニット代表ウニ・クリシュナン医師からの報告です。

インド南部のケララ州は、「神の国」と称され、インドで最も安全な州の一つであり、自然の美しさと、絵画のように美しい景観で知られています。

2018年8月にケララ州で起こった洪水は、過去100年近くの間に同州を襲った洪水の中でも甚大な被害をもたらし、子ども10万人以上を含む100万人以上が、同地域に開設された避難所3,274ヶ所に避難を強いられました(2018年8月時点)。

各地で起こる災害は、それぞれ異なりますが、コミュニティや政府、支援機関が、これまでに洪水や災害への対応の中で得た教訓は、ケララ州にとっても良き学びとなるでしょう。同様に、ケララ州の洪水支援の中で得た教訓は、世界中の人々にとっても良き学びとなるでしょう。昨夏、ケララ州の洪水支援から学んだ7つの教訓についてお伝えします。


セーブ・ザ・チルドレンが配布する教育キット

1.リーダーシップ
即断即決と強いリーダーシップは緊急・復興支援の行く末を決めることになるでしょう。強いリーダーシップは、自信と信頼を醸成し、支援活動の推進力を生み、方向を決める要素となります。

災害時のリーダーシップは、リーダーが助けを求めるのにどれだけ時間を要するかで測れるかも知れません。災害に直面した時に助けを求めることは、弱さの表れではなく、有能なリーダーシップの重要な特長であり、リーダーのそうした行動は、組織の中の他の人々が助けを求めることにもつながります。

2.脆弱な立場にある人、支援が届きづらい人たちを支援する
災害の影響を受けた人や、災害を生き延びた人たちの中には、より脆弱な立場にある人たちがいます。政府の優先事項は、子どもや妊娠中の女性、高齢者、経済的に困難な状況にある人、性同一性障害、LGBTI、障害のある人、都市から遠く離れた地域で被害に遭った人たちなど、支援が届きづらい人たちに、支援が確実に届くようにすることです。

科学的で迅速なニーズ調査による支援は、必要とされる支援が被災地に届くことにつながります。また、病気の末期症状にある子どもたちや大人、緩和ケアが必要な人たちへ、ケアと支援を提供できるように十分に配慮すべきで、こうしたケアや支援は大切なことですが、多くの災害の現場で見過ごされています。

3.調整
効果的な調整は、災害が危機に転ずるのを防ぎます。人道支援は、調整メカニズムによって決まります。現場には支援に従事する数百人のスタッフがおり、うまく調整することができなければ、すぐに混乱が生じます。優れた調整メカニズムは、被災地ですでに活動している数百人の人々や、これから支援のために現場に来る多くの人々を動かす上で極めて重要です。さらに、情報の共有は、優れた調整への第一歩であり、人々と情報を共有するだけでなく、人々から聞いた情報を政策決定者へ届けることも大切です。
外部からの支援は、地域の支援を補完するものであり、地域で行われている支援に取って代わるものではありません。

4.短距離競走ではなくマラソンで
災害が起こってすぐは、捜索や救助、支援に注目が集まりますが、はじめから全体像を注視することが必要です。広く知られている方法ではありませんが、復興と再建を同時に行うことは、人道支援を行う上で重要なことです。復興と再建は、どちらが先ということではなく同時に起こる必要があります。さらに、病気の流行予防と長期的な保健衛生分野に重点を置くことは、復興の初日から始めなければいけません。

他の地域で起こった洪水被害から学んだことは、被災した人々のニーズや状況は刻々と変化し、人道支援の焦点を救助から支援へ円滑に移行する必要が出てくるということです。円滑な移行は、被災した人たちが支援や復興事業に積極的に取り組むことを促進します。人々が、復興への取り組みへ関わること、参加することは、復興へ向けた大きな刺激となります。


洪水後の感染症拡大を防ぐため、コミュニティセンターの周りを清掃する地域ボランティアの女性たち

5.支援の第一歩
大規模災害が起こると、支援リストは数百項目にのぼり、そのリストは毎日増え続け、支援を調整する担当者は、すぐに混乱してしまいます。

こうした状況下では、まず、子どもたちへの支援から始めます。そして、その際に、1)子どもたちにどう影響するか、2)支援しないことで生じる損失は何か、の2点を考慮します。子どもを中心とした緊急支援の検討や計画、そして実際の支援を行うことは極めて重要です。さらに、重要なポイントは、衛生支援を行うことと、迅速な現金給付を通じて、地域の経済を活性化することです。現金給付は、災害支援で注目され始めており、地域の市場をすぐに再開させ、自立の助けとなります。

6.より良い復興
国連が提唱しているように、大切なことは「より良い復興(Build back better)」です。復興計画をつくるときに、重要なことは、地震を引き起こす断層の上で生活していることの危険性について考えることです。地震で犠牲者が出るというよりも、欠陥のある建物によって犠牲者が出ます。より優れた、頑丈で洪水に強い家屋や学校、病院、インフラをつくることを目標とすべきです。

そして、インフラの再建とともに、メンタルヘルスへの影響や心理社会的な影響といった目に見えない支援ニーズを認識することも必要です。私は、2011年3月に東日本大震災が起こったとき、宮城県仙台市で子ども支援に携わりました。数回の現地訪問と子どもたちとの交流の中で、震災から数年が経過してもなお、恐怖を感じるという子どもたちがいました。中には、トイレを流す水の動きと音が津波を思い出させるので、あまりにも怖くてトイレを流すことができない子もいました。大きな災害は、幼い心に消えることのない傷を残します。精神面のケアと支援を最優先とすべきです。

7.より良い将来を作り出す

地球温暖化は純然たる事実で、私たちは、より頻繁に激しい嵐や洪水を経験しています。2018年に、欧州はかつてない熱波に襲われました。私は、西日本が過去30年で最悪の洪水に見舞われ200人以上が犠牲になった昨年7月初旬に、日本にいました。洪水と嵐は、新聞の一面を飾り、その頻度は増しています。私のような人道支援に従事する者は、これまで以上に洪水やサイクロン、食料危機の現場へ支援に行くことになります。コミュニティが一つの災害への備えに投資することが、ひいては他の災害に備えることに繋がるでしょう。災害リスクの軽減、災害への備えと協調的な行動、子どもへの投資を優先させることが、生と死を分けることになり、それが進むべき未来なのです。

セーブ・ザ・チルドレン 緊急保健医療ユニット代表 医師 ウニ・クリシュナン

■ウニ・クリシュナンによる報告
偶然のスーパーヒーロー(2019年10月4日)
インド南部ケララ州の洪水から学ぶ7つの教訓(2019年10月8日)


 

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