タイ(公開日:2026.10.10)
【貧困撲滅のための国際デーに寄せて】シリーズブログVol.1〜タイ・バンコクにおける若者の就労支援〜
毎年10月17日は、国連が制定した貧困撲滅のための国際デーです。貧困の撲滅が人権の保護、人間の尊厳の確保、そして平和の実現と切り離せないものであることを確認する日です。
セーブ・ザ・チルドレンでは、「子どもの貧困」を重点分野の一つと位置付け、すべての子どもとその家族が、生活や成長に必要なものやサービス、機会を得ることができるように、直接支援や社会啓発、政策提言を通して、子どもの貧困問題解決に取り組んでいます。ただ、貧困問題解決と一口に言っても、実施している地域や対象によって、課題の本質と有効なアプローチはそれぞれに異なります。また、今後の活動を考えるうえで、これらの個別性に目を向けながらも、横展開できる学びを抽出していくことも重要です。
そこで、10月17日の貧困撲滅のための国際デーに寄せて、セーブ・ザ・チルドレンが行っている3ヶ国での事例を紹介します。今回は第一弾として、貧困問題解決の一環でタイのバンコクにおいて実施している若者の就労支援事業を紹介します。
■ なぜ大都市バンコクで事業を実施しているのか
バンコクは活気あふれる大都市で、632ヶ所のスラムが存在し、人口の7.2%に当たる約58万人が居住しています。この事業の対象地域であるクローントゥーイ地区の人口は約10万人で、地域住民の多くは低所得であり、生活は決して安定していません。都市部のスラム地区では、不安定な住環境、質の高い教育や医療へのアクセスの制限、十分な雇用機会の不足、社会的排除など、さまざまな課題が複雑に絡み合っており、貧困の連鎖を生み出す要因となっています。
タイには無償教育制度がありますが、クローントゥーイ地区の若者たちは、「18歳未満の子どもであっても兄弟や祖父母などを養うために働かなければならない」「なかには治安が必ずしもよくない地域もあり、コミュニティの中で巻き込まれてしまう」などといった状況にあります。これは、「若者自身では乗り越えにくい障壁がある」環境といえます。
また、中途退学後に学校教育へ戻ろうと望んでも戻りにくいという構造的課題があります。まずは目の前の現実を生きることに精いっぱいで、ロールモデルも少ない中、将来のことを考えたり希望を持ったりすることが難しい状況にあります。
都市部の貧困地域で暮らす若者たちにとって、将来的に仕事を得ることは単に収入を得る手段以上の意味を持ちます。生活の安定、自信の向上、人とのつながりの形成、そして貧困から抜け出すための道筋をもたらすのです。しかし、こうした機会にアクセスするためには、職業スキルの習得だけでなく、自己成長やソフトスキルの強化を含めた支援が必要です。
■ 私たちが取り組んでいること
セーブ・ザ・チルドレンはクローントゥーイ地区で、スキル研修や個別のメンタリング、インターンシップ機会の提供といった形で若者たちの支援を行っています。
ただ、スキルといっても私たちが支援しているのは職業訓練のようないわゆる「すぐに仕事に使えるスキル」だけではありません。職業訓練と両輪で、より根源的に「自ら人生を切り開くスキルの研修 (“Life Skill for Success:ライフスキル研修”)」に力点を置いています。
学校教育や公的な支援とつながりにくい若者たちを、コミュニティの力を通じて新しい機会につなげ、将来へ目を向けられるようにすることが狙いです。
■ アイスさんとプロイさんが経験したこと*
この事業に参加したアイスさんは、週に3日ほど介護を必要とする家族の世話をしていました。こうした介護の責任に加え、家計の厳しい状況も重なり、学業を続けることができませんでした。家族を支えたいという強い責任感と献身的な姿勢は、同年代の仲間たちと交流する機会を制限する一因ともなっていました。
こうした状況を踏まえ、私たちはアイスさんの家族や地域コミュニティと緊密に連携しながら再び教育を受けられるよう支援し、事業への参加につなげました。アイスさんは、バリスタコースに参加し、コーヒーの抽出技術だけでなく、接客スキルも着実に身につけていきました。地域イベントや事業の展示会では、実際に飲み物の提供を担当し、高い技術力と自信を示しました。また、事業において地域でパートナーシップを結んでいる企業やNGO、バンコク職業研修センターなどと連携したことで、インターンシップを通じて実践的な経験を積む機会を得ました。アイスさんの献身的な姿勢、真面目な仕事ぶりは、カフェのスタッフから高く評価されました。その結果、アイスさんはカフェスタッフとして就職機会を得ることができました。これは彼にとって、経済的な自立への第一歩となり、より安定した将来へとつながる大きな転機となりました。
プロイさんは10代のころ、交友関係などさまざまな要因から自身の進む方向を見失い、学校を中退しました。
プロイさんにとって、まずは時間通りに研修場所に来る、といったことが大きなハードルでした。しかし、事業に参加し他の参加者に出会うことで新たな人間関係を築き、友人ができる中で、人とともに同じ時間を過ごすことの価値に気づきました。プロイさんにとって大きかったのは、トレーナーたちによるメンタリングでした。彼らはプロイさんが人生の選択をできるよう導き、継続的な支援を行いました。また、プロイさんはもともとアートに強い関心を持っていました。デザインを学ぶ中で、同じ興味を持つ仲間たちと出会い、自身の才能や強みを発見することができました。
以前のプロイさんは、自分自身を「何でも少しはできるが、これといった強みがない人間」だと感じており、自身の能力や将来の方向性に自信を持てずにいました。しかし、事業への参加を通じて自信を深め、自分ならではの強みやスキルを見出し、大学でアートを学ぶことを目指して勉強を続けながら、ファッション業界での仕事にも挑戦をしています。さらに、プロイさんは、自分自身のためだけでなく地域の人々にとっても前向きな機会を生み出したいという思いを持ち、同じ困難を抱える地域の若者たちを支援したいと考えています。この事業の後輩のメンターを務めるなど、「次の世代」にも支援を広げています。
■ 私たちが学んでいること
このプログラムを実施する中で、私たち自身も大きな学びを得ています。
【相対的貧困の大きさ】
この事業を行っているタイのバンコクは経済発展が著しい地域ですが、だからこそ社会の中での格差が極めて大きいという状況にあります。ゆえに、ただ目の前の雇用の獲得や収入向上を目指すだけでは貧困の連鎖を断ち切ることは難しく、就労経験を得たり、教育を受けたりできる環境を整え将来に備えるという中長期的な視点が必要です。
【スティグマ(社会的烙印)への挑戦】
社会的地位が高い層がいるなかで、地域住民の多くが低所得層であることから「クローントゥーイはこのような地域だ」という固定観念として、地域とそこに住む若者にスティグマ(社会的烙印)が押されてしまう、クローントゥーイで生まれ育ったことにコンプレックスを持ってしまうといった課題が大きくなってしまう構造にあります。ある若者は、研修参加後、「クローントゥーイ出身であることにコンプレックスを感じていたが、ライフスキル研修を受けて自身の感情に向き合い、自分の中でコンプレックスに対処する術を学んだ」と語ってくれました。若者の周辺を取り巻く、「社会のなんとなくの意識」にまで目を向け活動していくことが重要です。
【Life Skill for Success (LS4S):ライフスキル研修の有効性】
セーブ・ザ・チルドレンがいままでの活動で得た知見・経験から、若者が就業し成功を収めるためには、職業訓練による技術習得だけでは十分ではないことが分かっています。多くの若者は、自信、ライフスキル、メンタリング、周囲の前向きな支援も必要としています。
私たちのライフスキル研修のアプローチでは、若者が自らおかれた環境を理解し、他者と協働し、目標を達成する力を体系的に養っていくことを重視します。また、コミュニティ・家庭・政府との連携により、若者の周囲の環境そのものを変えていくことに働きかけます。世代間の貧困連鎖を断ち切るアプローチのモデルとして、特に経済的な困難や差別に直面する若者が「働き、人生を切り開く力」を得ることが根源的な解決につながります。
私たちは、「目の前のニーズに応える支援」から一歩進んで、若者の将来の成功は何なのか、貧困の連鎖を真に断ち切るには何が必要なのかを考え、悩みながらあゆみを進めていきます。
次回は、第二弾として、別の切り口から生計向上支援を行っているモザンビークでの取り組みをご紹介します。
本事業は、株式会社ファーストリテイリング(ユニクロPEACE FOR ALLプロジェクト) からのご寄付により実施しています。
セーブ・ザ・チルドレンは毎年600以上の企業・団体の皆さまとさまざまな形で連携し、子どもたちを取り巻く課題解決に向けて活動しています。
【企業・団体の皆さまからのお問い合わせ先】
公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 法人連携担当
japan.corporatepartner@savethechildren.org
https://www.savechildren.or.jp/partnership
*プライバシー保護のため名前は変更されています。
セーブ・ザ・チルドレンでは、「子どもの貧困」を重点分野の一つと位置付け、すべての子どもとその家族が、生活や成長に必要なものやサービス、機会を得ることができるように、直接支援や社会啓発、政策提言を通して、子どもの貧困問題解決に取り組んでいます。ただ、貧困問題解決と一口に言っても、実施している地域や対象によって、課題の本質と有効なアプローチはそれぞれに異なります。また、今後の活動を考えるうえで、これらの個別性に目を向けながらも、横展開できる学びを抽出していくことも重要です。
そこで、10月17日の貧困撲滅のための国際デーに寄せて、セーブ・ザ・チルドレンが行っている3ヶ国での事例を紹介します。今回は第一弾として、貧困問題解決の一環でタイのバンコクにおいて実施している若者の就労支援事業を紹介します。
■ なぜ大都市バンコクで事業を実施しているのか
バンコクは活気あふれる大都市で、632ヶ所のスラムが存在し、人口の7.2%に当たる約58万人が居住しています。この事業の対象地域であるクローントゥーイ地区の人口は約10万人で、地域住民の多くは低所得であり、生活は決して安定していません。都市部のスラム地区では、不安定な住環境、質の高い教育や医療へのアクセスの制限、十分な雇用機会の不足、社会的排除など、さまざまな課題が複雑に絡み合っており、貧困の連鎖を生み出す要因となっています。
タイには無償教育制度がありますが、クローントゥーイ地区の若者たちは、「18歳未満の子どもであっても兄弟や祖父母などを養うために働かなければならない」「なかには治安が必ずしもよくない地域もあり、コミュニティの中で巻き込まれてしまう」などといった状況にあります。これは、「若者自身では乗り越えにくい障壁がある」環境といえます。
また、中途退学後に学校教育へ戻ろうと望んでも戻りにくいという構造的課題があります。まずは目の前の現実を生きることに精いっぱいで、ロールモデルも少ない中、将来のことを考えたり希望を持ったりすることが難しい状況にあります。
都市部の貧困地域で暮らす若者たちにとって、将来的に仕事を得ることは単に収入を得る手段以上の意味を持ちます。生活の安定、自信の向上、人とのつながりの形成、そして貧困から抜け出すための道筋をもたらすのです。しかし、こうした機会にアクセスするためには、職業スキルの習得だけでなく、自己成長やソフトスキルの強化を含めた支援が必要です。
■ 私たちが取り組んでいること
セーブ・ザ・チルドレンはクローントゥーイ地区で、スキル研修や個別のメンタリング、インターンシップ機会の提供といった形で若者たちの支援を行っています。
ただ、スキルといっても私たちが支援しているのは職業訓練のようないわゆる「すぐに仕事に使えるスキル」だけではありません。職業訓練と両輪で、より根源的に「自ら人生を切り開くスキルの研修 (“Life Skill for Success:ライフスキル研修”)」に力点を置いています。
学校教育や公的な支援とつながりにくい若者たちを、コミュニティの力を通じて新しい機会につなげ、将来へ目を向けられるようにすることが狙いです。
■ アイスさんとプロイさんが経験したこと*
この事業に参加したアイスさんは、週に3日ほど介護を必要とする家族の世話をしていました。こうした介護の責任に加え、家計の厳しい状況も重なり、学業を続けることができませんでした。家族を支えたいという強い責任感と献身的な姿勢は、同年代の仲間たちと交流する機会を制限する一因ともなっていました。
こうした状況を踏まえ、私たちはアイスさんの家族や地域コミュニティと緊密に連携しながら再び教育を受けられるよう支援し、事業への参加につなげました。アイスさんは、バリスタコースに参加し、コーヒーの抽出技術だけでなく、接客スキルも着実に身につけていきました。地域イベントや事業の展示会では、実際に飲み物の提供を担当し、高い技術力と自信を示しました。また、事業において地域でパートナーシップを結んでいる企業やNGO、バンコク職業研修センターなどと連携したことで、インターンシップを通じて実践的な経験を積む機会を得ました。アイスさんの献身的な姿勢、真面目な仕事ぶりは、カフェのスタッフから高く評価されました。その結果、アイスさんはカフェスタッフとして就職機会を得ることができました。これは彼にとって、経済的な自立への第一歩となり、より安定した将来へとつながる大きな転機となりました。
プロイさんは10代のころ、交友関係などさまざまな要因から自身の進む方向を見失い、学校を中退しました。
プロイさんにとって、まずは時間通りに研修場所に来る、といったことが大きなハードルでした。しかし、事業に参加し他の参加者に出会うことで新たな人間関係を築き、友人ができる中で、人とともに同じ時間を過ごすことの価値に気づきました。プロイさんにとって大きかったのは、トレーナーたちによるメンタリングでした。彼らはプロイさんが人生の選択をできるよう導き、継続的な支援を行いました。また、プロイさんはもともとアートに強い関心を持っていました。デザインを学ぶ中で、同じ興味を持つ仲間たちと出会い、自身の才能や強みを発見することができました。
以前のプロイさんは、自分自身を「何でも少しはできるが、これといった強みがない人間」だと感じており、自身の能力や将来の方向性に自信を持てずにいました。しかし、事業への参加を通じて自信を深め、自分ならではの強みやスキルを見出し、大学でアートを学ぶことを目指して勉強を続けながら、ファッション業界での仕事にも挑戦をしています。さらに、プロイさんは、自分自身のためだけでなく地域の人々にとっても前向きな機会を生み出したいという思いを持ち、同じ困難を抱える地域の若者たちを支援したいと考えています。この事業の後輩のメンターを務めるなど、「次の世代」にも支援を広げています。
■ 私たちが学んでいること
このプログラムを実施する中で、私たち自身も大きな学びを得ています。
【相対的貧困の大きさ】
この事業を行っているタイのバンコクは経済発展が著しい地域ですが、だからこそ社会の中での格差が極めて大きいという状況にあります。ゆえに、ただ目の前の雇用の獲得や収入向上を目指すだけでは貧困の連鎖を断ち切ることは難しく、就労経験を得たり、教育を受けたりできる環境を整え将来に備えるという中長期的な視点が必要です。
【スティグマ(社会的烙印)への挑戦】
社会的地位が高い層がいるなかで、地域住民の多くが低所得層であることから「クローントゥーイはこのような地域だ」という固定観念として、地域とそこに住む若者にスティグマ(社会的烙印)が押されてしまう、クローントゥーイで生まれ育ったことにコンプレックスを持ってしまうといった課題が大きくなってしまう構造にあります。ある若者は、研修参加後、「クローントゥーイ出身であることにコンプレックスを感じていたが、ライフスキル研修を受けて自身の感情に向き合い、自分の中でコンプレックスに対処する術を学んだ」と語ってくれました。若者の周辺を取り巻く、「社会のなんとなくの意識」にまで目を向け活動していくことが重要です。
【Life Skill for Success (LS4S):ライフスキル研修の有効性】
セーブ・ザ・チルドレンがいままでの活動で得た知見・経験から、若者が就業し成功を収めるためには、職業訓練による技術習得だけでは十分ではないことが分かっています。多くの若者は、自信、ライフスキル、メンタリング、周囲の前向きな支援も必要としています。
私たちのライフスキル研修のアプローチでは、若者が自らおかれた環境を理解し、他者と協働し、目標を達成する力を体系的に養っていくことを重視します。また、コミュニティ・家庭・政府との連携により、若者の周囲の環境そのものを変えていくことに働きかけます。世代間の貧困連鎖を断ち切るアプローチのモデルとして、特に経済的な困難や差別に直面する若者が「働き、人生を切り開く力」を得ることが根源的な解決につながります。
私たちは、「目の前のニーズに応える支援」から一歩進んで、若者の将来の成功は何なのか、貧困の連鎖を真に断ち切るには何が必要なのかを考え、悩みながらあゆみを進めていきます。
次回は、第二弾として、別の切り口から生計向上支援を行っているモザンビークでの取り組みをご紹介します。
本事業は、株式会社ファーストリテイリング(ユニクロPEACE FOR ALLプロジェクト) からのご寄付により実施しています。
セーブ・ザ・チルドレンは毎年600以上の企業・団体の皆さまとさまざまな形で連携し、子どもたちを取り巻く課題解決に向けて活動しています。
【企業・団体の皆さまからのお問い合わせ先】
公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 法人連携担当
japan.corporatepartner@savethechildren.org
https://www.savechildren.or.jp/partnership
*プライバシー保護のため名前は変更されています。




