アドボカシー(公開日:2026.09.25)
【開催報告】ウェビナー「危機下の教育と識字を守る3側面の取り組み:支援事業、政策提言、社会啓発」
セーブ・ザ・チルドレンは、教育協力NGOネットワーク(JNNE)と共催で、9月8日にウェビナー「危機下の教育と識字を守る3側面の取り組み:支援事業、政策提言、社会啓発」を開催しました。当日は、教育協力の実務者や関係者など、115人が参加しました。危機下の教育と識字を守るための取り組みにおいて、「支援事業」「政策提言」「社会啓発」という3側面からどのようなアプローチが実践され、またそれぞれの相乗効果をどのように高めていくことができるか、参加者とともに考えました。
(本ウェビナーは、国際協力機構(JICA)/開発コンサルタント協力企業が2026年9月7日(月)〜11日(金)に実施した「教育協力ウィーク2026」の一環として開催されたものです。)
ウェビナーの背景:2つの教育に関する国際デー
本ウェビナーは、以下の2つの国際デーを記念して実施されました。
●9月8日「国際識字デー」
1965年9月8日からイランで開催された「世界教育相会議(テヘラン会議)」において、当時のパーレビー国王が「各国の軍事費1日分を識字基金に拠出すること」を提案したことをきっかけに、アメリカのジョンソン大統領が米国議会に呼びかけ、UNESCOが制定した日です[1]。
●9月9日「教育を攻撃から守るための国際デー」
世界各地の紛争下で学校や子どもたちが武力攻撃や軍事利用の標的となっている現状を受け、2020年に国連総会で採択されました。紛争下においてもすべての人が安全な環境で教育を受けられるよう、世界各国が責任をもって取り組むことが合意された日です[2]。
こうした国際デーが生まれた背景には、教育を守り、人々の学ぶ権利を保障し続けていくことの重要性への強い願いがあります。しかし現実には、多発する紛争の中で多くの一般市民が巻き込まれ、また紛争の長期化に伴い、多くの子どもたちが教育の機会を失っています。
[1] 公益社団法人日本ユネスコ協会連盟
[2] セーブ・ザ・チルドレン、「毎年9月9日は「教育を攻撃から守る国際デー」に −国連総会で全会一致で決定」、2020.6.4
ウェビナーの内容
<問題提起>
JNNE事務局長 三宅隆史氏
三宅氏は、世界の識字と紛争下の教育の現状について、データを交えて解説しました。識字は読み・書き・計算などの日常生活や仕事で使える機能的な能力から、抑圧からの解放や尊厳を守るための意識化、そしてメディアリテラシーや金融リテラシーといったより広義な能力としての「literacies」など、連続性があるものです。
現在、SDGsのターゲット4.6に掲げられている識字の目標「2030年までに、全ての若者及び大多数(男女ともに)の成人が、読み書き能力及び基本的計算能力を身に付けられるようにする」は、最も進捗が遅れているターゲットの一つです。その背景には、世界で約2億2,400万人もの学齢期の子どもたちが紛争による影響を受けているという現状があります。
三宅氏は、教育は子どもの発達に必要なだけでなく、子どもを保護する役割を持っていること、また住民からも重視されている点など、危機下であっても教育を継続することの意義を訴えました。
そして、現場の支援事業に加え、社会啓発や政策提言にも取り組まなければ、課題の根本原因になっている学校に対する攻撃や不公正な貿易、金融、税制ルール、近年ますます深刻化する気候変動などに目を向け、対処することはできないと指摘しました。
三宅氏の発表スライドより:なぜ、NGOは支援事業に加えて社会啓発、政策提言に取り組むのか
<支援事業の側面>
セーブ・ザ・チルドレン 海外事業部アジア・中東地域チーム プログラムコーディネーター 小山光晶
小山からは、支援事業の側面から「イエメンでの教育事業における成果と振り返り」の紹介がありました。イエメンでは、2026年時点で教育を受けることができていない子どもが少なくとも約450万人いると推定され、武力衝突などによって破壊された学校の数は約2,370校に上ります。
また、給与を受け取っていない教員の割合も約65%と高く、子どもたちが教育を受ける上で複合的な課題が存在しています。
こうした状況を鑑み、セーブ・ザ・チルドレンは2022年8月よりジャパン・プラットフォーム(JPF)の支援を受け、国内避難民の子どもを対象にしたノンフォーマル教育支援を2ヶ所の学習支援センターにて実施してきました。授業の実施だけでなく、課外活動や学用品の配布、また、保護者向けの読み書き・計算の授業の実施や地域住民向けの啓発活動を通じて、子どもの中退率の減少や出席率の増加、読み書き・計算能力の向上を実現しています。
そして、このような活動の中で見られた子どもたちの変化から、危機的な状況下における教育は単に学びの機会を提供するだけでなく、子どもたちの「命」と「未来」を守る価値のある“life-saving(ライフ・セービング)”の役割を果たしていることを強調しました。
※イエメン事業の様子についてはこちらの動画をぜひご覧ください(JPF作成):https://www.youtube.com/watch?si=3s6PDd_YpczaLavk&v=TXAFi8EeO6Q&feature=youtu.be
小山の発表スライドより:危機下の教育の意義「教育はLife-savingなのか?」
<政策提言の側面>
セーブ・ザ・チルドレン アドボカシー部グローバル政策提言チームヘッド 大野容子
大野からは、危機下の教育支援に充分な資金が投入されるよう、国会議員に働きかけるアドボカシー活動の一環として行った海外事業の現場視察についての報告がありました。
2013年から2018年の6年間に収集された、紛争や自然災害などの人道危機下にある国々の5歳〜18歳までの1,689人の子どもたちの調査データの分析の結果、子どもたちが最も重視している支援分野は圧倒的に教育(29%)であることが分かっています。これは食料(12%)や保健医療(12%)、水・衛生(12%)の2倍以上という結果です[3]。一方で、教育支援に対する国内の議員の関心は相対的に薄く限定的なため、ODA予算に反映されない課題などがあります。
このような状況に対し、2023年より、紛争等の人道危機における教育を対象にした唯一の国連の基金であるECW(Education Cannot Wait: 教育を後回しにはできない基金)が支援する現場を議員が視察するといったアドボカシー活動を行ってきました。これにより、ODA政策の基本である「開発協力大綱」に紛争下の教育が言及されたり、国会において首相の「(ECW拠出について)前向きに検討」という答弁を引き出せたことなど、日本政府によるECWへの資金拠出に至るまでの道のりと成功要因などが紹介されました。
最後に、教育協力においては、地域や文化・慣習、歴史などのコンテクストによって求められる教育が千差万別であるため、日本の顔が見える支援の強みのみならず、「継続した教育支援の価値そのもの」と、多国間支援を通じて日本が果たせる役割についても考えを述べました。
[3]Save the Children UK(2019), “Education against the Odds: Meetingmarginalised children’s demands for a quality education”, pp.4-5.
大野の発表スライドより:みなさまに伝えたいこと
<社会啓発の側面>
セーブ・ザ・チルドレン アドボカシー部社会啓発オフィサー 松山晶
松山からは、紛争が長期化する中で埋もれがちな子どもの声や現場の実態を、日本国内で一般市民に伝え、支援や政策への関心・理解・支持を広げる社会啓発活動の事例紹介がありました。
1つ目の事例は「『学校保護宣言』の啓発・署名アクション」です。「学校保護宣言」は紛争下において学校・大学を武力攻撃や軍事利用から守るための国際的な指針であり、世界123ヶ国が支持し取り組みを進めている中、日本はいまだこの宣言に賛同していません(2026年9月時点)。
こうした状況を受けて、セーブ・ザ・チルドレンではこれまで「学校保護宣言」の市民・メディア向けの啓発企画や日本政府による賛同を求める署名活動を展開。1万7,479人の署名協力を得たほか、国会質疑にて「学校保護宣言」が複数回取り上げられ、「日本政府として賛同できるかは検討したい」といった外務大臣の答弁がなされました。また、学校が武力攻撃に晒されている現状に対して子ども・ユースからも大きな関心が寄せられ、関係省庁への署名の手交や対話機会には、ユースメンバーも主体的に参加しています。
2つ目の事例は、「出前授業・教員向けイベント」です。セーブ・ザ・チルドレンは、危機下の教育の現状や日本からできることについて広く知ってもらうための活動の一環として、中学生〜大学生を対象にした出前授業を実施しています。
これまで行われてきた授業では、紛争影響下にある子どもや教員の声や想い、また危機下でも学び続けるために現場ではどのような工夫がなされているかなど、日本で学ぶ生徒たちに伝えています。また、SDGsや国際協力・国際理解を授業で扱うことに関心のある先生向けにも、授業で活用できる教材などを紹介する教員向けワークショップを開催しています。
松山の発表スライドより:危機下の教育を考える出前授業も行っています
<パネルディスカッション>
各登壇者の発表を踏まえて、パネルディスカッションでは「支援事業・政策提言・社会啓発の相乗効果を生むためには?現状の課題と今後の展望」について意見を交わしました。
三宅氏は、「支援現場のリアリティ」と「当事者の声」を大切にすることの重要性を指摘しました。戦火を逃れてきた人々を「難民/亡命者」としてではなく、「親子」「子ども」「家族」として捉え、その人間性を伝えるメッセージは、啓発活動だけでなく、難民受け入れ国へのアドボカシーにも活用されていることなどを紹介しました。
小山は、危機下の教育支援だからこそ生まれる「行動変容」や「意識の変化」を、より明確に可視化・発信していく必要があると述べました。また、現場スタッフから「危機下の教育支援は有難い」と言われることがあるが、理由を尋ねたところ、「教育は危機下のレジリエンスを高めるから」とのエピソードを共有しました。出席率や中退率といった数値だけでなく、子どもが学びに前向きになるなどの「質の変化」を示すストーリーを政策提言や社会啓発にも生かしていきたい、と語りました。
大野は、「支援事業と社会啓発なしには政策提言は成立しないと言っても過言ではない」と強調しました。現場があるからこそ議員に実情を伝えることができ、また市民の関心や声があるからこそ、議員は課題に向き合う必要性を感じます。一方で、日本では国際協力・教育の分野で政策提言に取り組む個人や団体が依然として少ないことを課題として挙げ、今後こうした活動に携わる人材が増えていくことに期待を寄せました。
松山は、「紛争の背景や構造的な課題にも目を向けてもらうことを大切にしている」と話しました。現地の子どもや教師など「人を知る」ことで参加者が自分ごととして考えるきっかけを提供すると同時に、国際社会や日本政府の取り組みにも触れ、理解を深めるよう努めていると説明しました。また、啓発活動を行う中で、世界の課題について知り「何かやりたい」と感じた参加者の想いを、具体的な行動へタイムリーにつなげることも今後の課題として共有されました。
参加者からは、教育支援の現場に絵・図・記号などを用いたビジュアルコミュニケーションを取り入れる価値や可能性について、また政策提言や社会啓発を行う上で心がけていることについてなど、多くの質問が寄せられ、盛会のうちに終了することができました。
戦火から逃れてきた人々を「難民/亡命者」としてではなく、「親子」「子ども」「家族」として捉え、その人間性を伝えること意識したセーブ・ザ・チルドレンの啓発ポスター
危機下においてもすべての子どもたちの学びと教育を受ける権利が守られるよう、セーブ・ザ・チルドレンはこれからも現場での支援事業に加え、引き続き政策提言や社会啓発にも力を入れ、教育が後回しにされない世界の実現を目指して尽力します。
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