パキスタン(公開日:2025.02.28)
【パキスタン学習継続と復学支援ケースストーリー】:アフガニスタン難民とホストコミュニティの子どもたちへ
2023年3月1日から2024年3月31日にかけて、セーブ・ザ・チルドレンは、現地パートナー団体のTameer e Khalq Foundation (TKF)と協働し、パキスタン・バロチスタン州で、アフガニスタン難民と地域のパキスタン人の子どもに対する学習継続および復学支援事業を実施しました。(事業報告ブログはこちら)
今回は支援を受けた子どものケースストーリーを紹介します。
ヌールさん(11歳)はバロチスタン州の農村部で両親と暮らしています。ヌールさんは生まれながらにして聴覚障害がありました。治療は可能でしたが、その費用は到底ヌールさんの家庭で賄えるものではありませんでした。また、学校に通うための費用を捻出するのも難しく、ヌールさんは学校に通うことができていませんでした。
しかし、ヌールさんの母親は、セーブ・ザ・チルドレンが地域で行った啓発活動に参加したことで、教育の重要性を認識し、ヌールさんを公立学校に入学させることを決意しました。その後、セーブ・ザ・チルドレンの支援によって学用品を受領したほか、現地社会福祉局が提供している給付金プログラムの情報が共有され、給付金を定期的に受給することで経済的負担も緩和され、ヌールさんを学校に送り出すことができるようになりました。ヌールさんが通う学校の校長にもヌールさんの事情は共有され、ヌールさんは補聴器を使用して授業を受け、学校全体でヌールさんの学びを支えています。
ヌールさんを担当する教員のアスマさんはこのように話します。
「セーブ・ザ・チルドレンが障害のある子どものサポートの仕方を伝えてくれました。私たちはヌールさんが学業で大成するために彼が必要な配慮をしたいと思っています。彼の学び、特に算数に対する熱意には本当に刺激を受けます。」
アスマさん(12歳)は、かつて児童労働のサイクルに陥っていました。難民としてパキスタンに居住する家族のもとで育ちましたが、6人のきょうだい含め全員がパキスタンで生まれています。
アスマさんの両親は日々の生計を立てるため、父親は日雇いの労働者として働き、母親は学校の使用人としてゴミ出しや皿洗い、学校の開錠と施錠などを行っていました。しかし、ある日父親が病に伏せ、アスマさんの母親が看病をしなくてはならなかった時、アスマさんは母親の役割を肩代わりし、学校で働いていました。
現地パートナー団体職員の一人であるサラムさんはこのようなアスマさんの状況を知り、アスマさんが再度学校に通学できるように個別支援を行いました。また、現地NGOと連携し、アスマさんの家族は経済的支援を受け、学用品も提供されました。また、啓発活動によってアスマさんの母親は児童労働に関する問題と教育の重要性をより強く認識しました。アスマさんの母親は次のように語ります。
「私はいつも娘に学校に行って欲しかったですが、勉強するのではなく、使用人として働くために送り出さなければならなかったことが非常に悲しかったです。セーブ・ザ・チルドレンはなぜ子どもたちの教育を優先しなくてはならないか、私たちのような女性の間での認識を深めてくれました。彼らのおかげで娘は働くことから自由になり、自身の教育に集中することができます。」
アスマさんはインタビューでこのように語りました。
「私の好きな科目は英語です。私は自分の感情やアイデアを表現することを学びました。クリケットの試合を通して英語の実況解説を学びたいと強く思っています。クリケットを見ることは私のお気に入りの時間の過ごし方です。とても楽しいのです。」
地域の学校に通うワルダさん(13歳)の父親は教員として働き、母親は家庭を切り盛りしていました。
ワルダさんは、学校への通学途中に一人の地域住民から言葉によるハラスメントを受けていましたが、そのことを母親に相談することができませんでした。黙ってやり過ごそうとしていましたが孤独感は深まり、誰も信じることができなくなっていました。ハラスメントが続くにつれて、学校に通うことを止めてしまうことも考えていました。
現地パートナー団体職員であるレハナさんはワルダさんとワルダさんの母親との面会の際、ワルダさんの母親が啓発活動に参加することや、ワルダさんが子どものレジリエンス1 向上のためのワークショップに参加することを勧め、ワルダさんの母親はその考えに賛同しました。
ワークショップの目標は子どもが将来の困難に備え、対処できるようにすることです。教育を受けるための障害がなくなるようにし、学校に安全に通学できるようになることを目的としていました。このワークショップを通して、ワルダさんは自分の”声”に気が付きました。ワルダさんの母親との対話を経て自分がハラスメントを受けていることを打ちあけました。ワルダさんの状況を受け、ワルダさんの母親はすぐに父親と相談し、ワルダさんの父親がワルダさんの登下校につきそうことになりました。これにより、ハラスメントはやんだのです。
ワルダさんは今このように語ります。
「子どもには権利があります。何かが間違っている時や誰かが私たちに害を及ぼそうとしている時は声をあげなければなりません。」
ビラルさん(12歳)は4人きょうだいで小さな村に住んでいます。ビラルさんは他の同年代の生徒に比べて内向的で人前で話すことに不安を感じ、自信を失っていました。そのため他者とコミュニケーションをとることに困難を感じていました。
現地パートナー団体職員のアスガールさんはビラルさんの状況に気づき、ビラルさんの教員や父親からのヒアリングを通して、状態が深刻であると判断しました。ビラルさんの精神的な課題に対応するため精神科医を含む専門家の支援へ付託し、ビラルさんは必要な治療を受けることができました。
この取り組みにより、ビラルさんの心理状態は著しく改善し、勉強や社会的関わりを持つことに自信を持つようになりました。ビラルさんの変化を見ていたアスガールさんは以下のように語ります。
「ビラルさんはより自信を持つようになり、勉強にもより精力的に取り組むようになりました。」
これらのケースストーリーからもわかるように子どもたちが学校に通うことができない、あるいは中退してしまう背景にはさまざまな理由があります。そのため一人ひとりに適した個別支援を実施していくことが重要になってきます。
セーブ・ザ・チルドレンは、子どもたちが暴力などから守られ、安心・安全な環境で学校へ通学を継続し、また、復学することができるようパキスタンでの支援を継続していきます。
本事業は皆様からのご寄付により実施しています。
(海外事業部 小山光晶)
今回は支援を受けた子どものケースストーリーを紹介します。
ヌールさん(11歳)はバロチスタン州の農村部で両親と暮らしています。ヌールさんは生まれながらにして聴覚障害がありました。治療は可能でしたが、その費用は到底ヌールさんの家庭で賄えるものではありませんでした。また、学校に通うための費用を捻出するのも難しく、ヌールさんは学校に通うことができていませんでした。
しかし、ヌールさんの母親は、セーブ・ザ・チルドレンが地域で行った啓発活動に参加したことで、教育の重要性を認識し、ヌールさんを公立学校に入学させることを決意しました。その後、セーブ・ザ・チルドレンの支援によって学用品を受領したほか、現地社会福祉局が提供している給付金プログラムの情報が共有され、給付金を定期的に受給することで経済的負担も緩和され、ヌールさんを学校に送り出すことができるようになりました。ヌールさんが通う学校の校長にもヌールさんの事情は共有され、ヌールさんは補聴器を使用して授業を受け、学校全体でヌールさんの学びを支えています。
ヌールさんを担当する教員のアスマさんはこのように話します。
「セーブ・ザ・チルドレンが障害のある子どものサポートの仕方を伝えてくれました。私たちはヌールさんが学業で大成するために彼が必要な配慮をしたいと思っています。彼の学び、特に算数に対する熱意には本当に刺激を受けます。」
アスマさん(12歳)は、かつて児童労働のサイクルに陥っていました。難民としてパキスタンに居住する家族のもとで育ちましたが、6人のきょうだい含め全員がパキスタンで生まれています。
アスマさんの両親は日々の生計を立てるため、父親は日雇いの労働者として働き、母親は学校の使用人としてゴミ出しや皿洗い、学校の開錠と施錠などを行っていました。しかし、ある日父親が病に伏せ、アスマさんの母親が看病をしなくてはならなかった時、アスマさんは母親の役割を肩代わりし、学校で働いていました。
現地パートナー団体職員の一人であるサラムさんはこのようなアスマさんの状況を知り、アスマさんが再度学校に通学できるように個別支援を行いました。また、現地NGOと連携し、アスマさんの家族は経済的支援を受け、学用品も提供されました。また、啓発活動によってアスマさんの母親は児童労働に関する問題と教育の重要性をより強く認識しました。アスマさんの母親は次のように語ります。
「私はいつも娘に学校に行って欲しかったですが、勉強するのではなく、使用人として働くために送り出さなければならなかったことが非常に悲しかったです。セーブ・ザ・チルドレンはなぜ子どもたちの教育を優先しなくてはならないか、私たちのような女性の間での認識を深めてくれました。彼らのおかげで娘は働くことから自由になり、自身の教育に集中することができます。」
アスマさんはインタビューでこのように語りました。
「私の好きな科目は英語です。私は自分の感情やアイデアを表現することを学びました。クリケットの試合を通して英語の実況解説を学びたいと強く思っています。クリケットを見ることは私のお気に入りの時間の過ごし方です。とても楽しいのです。」
地域の学校に通うワルダさん(13歳)の父親は教員として働き、母親は家庭を切り盛りしていました。
ワルダさんは、学校への通学途中に一人の地域住民から言葉によるハラスメントを受けていましたが、そのことを母親に相談することができませんでした。黙ってやり過ごそうとしていましたが孤独感は深まり、誰も信じることができなくなっていました。ハラスメントが続くにつれて、学校に通うことを止めてしまうことも考えていました。
現地パートナー団体職員であるレハナさんはワルダさんとワルダさんの母親との面会の際、ワルダさんの母親が啓発活動に参加することや、ワルダさんが子どものレジリエンス1 向上のためのワークショップに参加することを勧め、ワルダさんの母親はその考えに賛同しました。
ワークショップの目標は子どもが将来の困難に備え、対処できるようにすることです。教育を受けるための障害がなくなるようにし、学校に安全に通学できるようになることを目的としていました。このワークショップを通して、ワルダさんは自分の”声”に気が付きました。ワルダさんの母親との対話を経て自分がハラスメントを受けていることを打ちあけました。ワルダさんの状況を受け、ワルダさんの母親はすぐに父親と相談し、ワルダさんの父親がワルダさんの登下校につきそうことになりました。これにより、ハラスメントはやんだのです。
ワルダさんは今このように語ります。
「子どもには権利があります。何かが間違っている時や誰かが私たちに害を及ぼそうとしている時は声をあげなければなりません。」
ビラルさん(12歳)は4人きょうだいで小さな村に住んでいます。ビラルさんは他の同年代の生徒に比べて内向的で人前で話すことに不安を感じ、自信を失っていました。そのため他者とコミュニケーションをとることに困難を感じていました。
現地パートナー団体職員のアスガールさんはビラルさんの状況に気づき、ビラルさんの教員や父親からのヒアリングを通して、状態が深刻であると判断しました。ビラルさんの精神的な課題に対応するため精神科医を含む専門家の支援へ付託し、ビラルさんは必要な治療を受けることができました。
この取り組みにより、ビラルさんの心理状態は著しく改善し、勉強や社会的関わりを持つことに自信を持つようになりました。ビラルさんの変化を見ていたアスガールさんは以下のように語ります。
「ビラルさんはより自信を持つようになり、勉強にもより精力的に取り組むようになりました。」
これらのケースストーリーからもわかるように子どもたちが学校に通うことができない、あるいは中退してしまう背景にはさまざまな理由があります。そのため一人ひとりに適した個別支援を実施していくことが重要になってきます。
セーブ・ザ・チルドレンは、子どもたちが暴力などから守られ、安心・安全な環境で学校へ通学を継続し、また、復学することができるようパキスタンでの支援を継続していきます。
本事業は皆様からのご寄付により実施しています。
(海外事業部 小山光晶)
1 回復力とも言う。子どもが持つ、困難によりもたらされる有害な影響を克服する能力や適切な権利、健康、発達を実現する方法を見出すための適応能力のこと。出典:人道行動における子どもの保護の最低基準第2版