トップページ > スタッフブログ > アドボカシー > 【子どもの保護コラム】いま世界が“体罰禁止”に向かう理由
――4月30日「子どもへの体罰を終わらせる国際デー」に寄せて――

アドボカシー
(公開日:2025.04.28)

【子どもの保護コラム】いま世界が“体罰禁止”に向かう理由
――4月30日「子どもへの体罰を終わらせる国際デー」に寄せて――

 
このコラムでは、「子どもの保護(Child Protection)」という分野を、さまざまな社会課題とも掛け合わせながら、日本の皆さんにわかりやすくお伝えします。
 子どもを取り巻く課題を知り、考え、行動につなげるきっかけになれば幸いです。他分野やセーブ・ザ・チルドレンの活動ともつながる場としてお届けします。

4月30日「子どもへの体罰を終わらせる国際デー」は、1979年に世界で初めて体罰を全面禁止したスウェーデンが、2001年に提唱したものです。以来、子どもを暴力から守る国際的な取り組みの象徴とされています。
2025年3月には、タイが家庭・学校・施設などの場所や環境を問わず、すべての場面での体罰を法的に禁止し、世界で68番目の全面禁止国となりました。
タイでは、子どもの約4人に3人が体罰を経験しているという実態の中、今回の法改正は、しつけと称した暴力の容認を見直す歴史的な一歩です。
ただし、現時点の進捗では世界全体で体罰を禁止するまでに60年かかるとも言われており、今後のさらなる加速が求められています。 

■世界の体罰禁止の現状
下の地図は、子どもへの体罰の法的禁止が世界でどのように進んでいるかを視覚的に示したものです。(2025年4月30日現在)



 
 出典:End Corporal Punishment https://endcorporalpunishment.org/


全面禁止
• 家庭・学校などあらゆる場面で体罰を法律で明確に禁止している
• 例:スウェーデン(1997年)、日本(2020年)、タイ(2025年)など

政府が全面禁止を公約
• まだ全面禁止には至っていないが、法改正の意思を明確に表明している
• 例:ウガンダ:2024年の国際会議で全面禁止に向けた法改正を誓約 、カンボジア:法律改正を国家行動計画に盛り込み協議を実施中 

一部禁止
• 学校や司法機関などでは禁止されているが、家庭内では合法のまま
• 例:バングラデシュ:学校では違法だが、家庭内体罰は刑法で容認 

未禁止
• 体罰に関する明確な法規制が存在しない
• 例:現時点では主に一部アフリカ・中東諸国など

この分類を見ると、多くの国が「禁止へ向かっている途中」にあることが分かります。法の整備は、子どもを守る第一歩です。


■日本の体罰禁止の現状
2019年、日本では児童虐待防止法の改正により、「しつけ」と称した体罰も含む親による体罰が明確に禁止されました。2020年には日本が世界で59番目の「体罰全面禁止国」として国際的にも認められました。この法改正の実現を後押しする上で、セーブ・ザ・チルドレンも政策提言や市民への啓発活動などを通じて重要な役割を果たしました。
以下のセーブ・ザ・チルドレンの特設サイトでは、体罰に関する情報を分かりやすく掲載しています。どうなる?子どもへの体罰禁止とこれからの社会


■体罰は、しつけではなく「暴力」
「少しぐらいなら…」「自分も叩かれて育った」——そんな考えが、今も日本を含む多くの国に根強く残っています。 しかし、世界中の研究は「体罰はしつけではなく、子どもの心と体に害を及ぼす暴力である」と明確に示しています。子ども向けに「体罰としつけの違い」について、易しく解説した記事はこちら:体罰としつけは違う!たたかれていい子どもなんていない  | あすのコンパス | セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
ここでは、体罰が子どもや世代間に与える影響、体罰の減少に成功した子育てプログラムについて、国際的な研究に基づいてご紹介します。

● 子どもの脳の発達に影響
ハーバード大学の研究によれば、体罰を受けた子どもは「危険な状況にさらされた」と脳が敏感に反応しやすくなる傾向がありました。 これは、脅威に対して、重度の虐待を受けた子どもに見られる前頭前野の縮小と同じ脳の反応が表れていることを意味します。 つまり、たとえ「軽い体罰」だったとしても、子どもの脳は深刻なストレスとして受け取り、長期的な発達に悪影響を及ぼす可能性があることが示唆されています。 

● 暴力が連鎖してしまう社会に(暴力は「学ばれる」)
アメリカの大規模な研究によると、子どものころに家庭で体罰を受けた人は、大人になってから自分の子どもやパートナーに暴力をふるう可能性が高いことが分かっています。 これは、「体罰はしつけとして当たり前」と考えられてしまうことで、次の世代にもその行動が引き継がれてしまう可能性を示しています。 このような連鎖を断ち切るには、早い段階から体罰を伴わない子育てを広めることがとても大切です。 

● 地域主導型プログラムで体罰の減少に成功した実証研究
オックスフォード大学のクルーバー教授らが南アフリカで行った研究では、保護者と思春期の子どもが一緒に参加する子育てプログラムにより、家庭での体罰が約45%減少したことがわかりました。このプログラムは、研修を受けた地域の人が実施でき、特別な資格や高額な費用は必要ありません。参加家庭では、子どもへの接し方がやさしくなるだけでなく、ストレスの軽減、子どもの薬物使用の減少など、さまざまな良い変化が報告されました。 


■セーブ・ザ・チルドレンの国際的な取り組み
子どもの保護とは、子どもに対する虐待、ネグレクト、搾取、暴力を予防し、対処するための取り組みです。その中でも、体罰の撤廃は最も基本的かつ緊急性の高い課題のひとつです。なぜなら、体罰は家庭、学校、地域など日常生活のあらゆる場面で子どもの尊厳と発達を脅かすものであり、それが「しつけ」として正当化されやすいからです。

セーブ・ザ・チルドレンは、次のような多方面からこの課題に取り組んでいます:
    • 法律・制度の強化支援(子どもの保護の仕組み強化、政策提言)
    • 地域啓発と社会規範の変容(住民や宗教指導者との対話)
    • 保護者や教員への支援(体罰等によらない子育て研修の実施)
    • 子どもの声を聴き、発信する活動(子どもグループを中心とした子どもの意見表
明)


以下では、カンボジア・バングラデシュ・ウガンダでの子どもの保護の実践例をご紹介します。


■カンボジア:家庭と学校から「暴力の連鎖を断ち切る」
カンボジアでは、多くの保護者や教員が自身も体罰を受けて育ってきた背景があります。セーブ・ザ・チルドレンは、家庭内や学校での暴力を“当たり前”とせずに変えていくため、学校と連携し、教室から暴力のない環境を広げています。
(詳しくは【カンボジア】学校での暴力に立ち向かった子どもたち〜キムさんの声〜をご覧ください)

 
教員と生徒が共に学校内の暴力の課題に取り組むことで安心・安全な学校環境へ


■バングラデシュ:子どもと大人が一緒に「子どもを守る地域づくり」
バングラデシュでは、家庭や学校での体罰が社会的に容認されやすい状況があります。セーブ・ザ・チルドレンは、子どもや青少年たちが中心となり地域住民・教員・行政が協力して、地域全体で子どもを守る力を育んでいます。
(詳しくは【バングラデシュ】子どもと青少年が地域を変える!子どもの保護のシステム強化事業を開始をご覧ください)

 
子どもの保護をテーマに、暴力のない世界を願いながら絵を描く少女


■ウガンダ:しつけの“常識”を変える、親子の学び
ウガンダでは、体罰が「愛情表現の一部」と考えられてきた文化・慣習があります。
セーブ・ザ・チルドレンは、「セーフ・ファミリーズ(Safe Families)」という体罰等によらない子育て研修を通じて、保護者のみならず子ども自身も学び、変わっていく機会を提供しています。
(詳しくは【ウガンダ】社会福祉オフィサーが語る、家族としての愛着を育む子育て支援の重要性をご覧ください)



子ども向けの体罰等によらない子育て研修(Safe Families)の様子


セーブ・ザ・チルドレンは、これからも体罰のない社会を目指して、すべての子どもが安心して育つための取り組みを続けていきます。

海外事業部 ウガンダ駐在員 内藤優和


参考文献

i Savethe Children.

Thailand becomes 68th country to bancorporal punishment against children, but global target still 60 years away. 27 March 2025.

Available at: https://www.savethechildren.net/news/thailand-becomes-68th-country-ban-corporal-punishment-against-children-global-target-still-60 (Accessed on 16th April2025)

 

ii EndCorporal Punishment. UgandaCountry Report.

Available at: https://www.endcorporalpunishment.org/wp-content/uploads/country-reports/Uganda.pdf(Accessed on16th April 2025)

 

iii EndCorporal Punishment.Cambodia Country Report.

Available at: https://www.endcorporalpunishment.org/wp-content/uploads/country-reports/Cambodia.pdf?utm (Accessed on 16th April2025)

 

iv EndCorporal Punishment.Bangladesh Country Report.

Available at: https://www.endcorporalpunishment.org/wp-content/uploads/country-reports/Bangladesh.pdf  (Accessed on 16th April 2025)

 

v CuartasJ, Weissman DG, Sheridan MA, Lengua L, McLaughlin KA.
Corporal Punishment and Elevated Neural Response to Threat in Children.
Child Development. 2021;92(3):821–832.
doi:10.1111/cdev.13565

Available at: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8237681/ (Accessed on 16thApril 2025)

 

vi GershoffET, Grogan-Kaylor A.
Spanking and Child Outcomes: Old Controversies and New Meta-Analyses.
Journal of Family Psychology. 2016;30(4):453–469.
Available at:
https://local.psy.miami.edu/faculty/dmessinger/c_c/rsrcs/rdgs/emot/spanging.meta.2016.jFamPsych.pdf?utm (Accessed on 16th April2025)

 

vii CluverLD, Meinck F, Steinert JI, et al.
Parenting for Lifelong Health: A Pragmatic Cluster Randomised ControlledTrial of a Non-Commercialised Parenting Programme for Adolescents and TheirFamilies in South Africa.
BMJ Global Health. 2017;3:e000539.
doi:10.1136/bmjgh-2017-000539

Available at:  https://gh.bmj.com/content/bmjgh/3/1/e000539.full.pdf (Accessed on 16th April2025)


 

あなたのご支援が子どもたちの未来を支えます

もっと見る

月々1500円から、自分に合った金額で子どもの支援ができます。
定期的に年次報告書や会報誌をお送りしています。

1回から無理なくご支援いただけます。

PAGE TOP