アドボカシー(公開日:2026.06.01)
プライド月間に考える、子どもの多様なSOGIEと権利
6月はプライド月間です。世界各地で、LGBTQ+当事者の人権を守り、社会の理解を広げるための啓発活動やイベントが行われます。私たちは、すべての子どもが尊厳をもって、自分らしく生きる権利を持つと考えていますi。この視点から、子どもたちの多様な性的指向や性自認、性表現(SOGIE)に関する課題は、子どもの権利そのものに深く関わるテーマです。6月は、SOGIEをめぐる子どもたちの置かれている状況や課題、そして、誰ひとり取り残さない社会を目指すために私たちが大切にしていることについて発信していきます。
■SOGIEという考え方と私たちの立場
SOGIE(ソジ―)とは、性的指向(Sexual Orientation)、性自認(Gender Identity)、性表現(Gender Expression)を組み合わせた用語であり、誰もが持つ「性のあり方」を表します。
この概念は、性のあり方がスペクトラム(連続的な広がり)であるという理解に基づき、個々の多様なあり方を包括的捉えるために用いられています。また私たちは、性のあり方を自己認識によるものだけでなく、周囲からみなされる場合、家族・友人のSOGIEによって子どもたちが影響を受ける場合も含め、社会の規範や期待に合致しないとされるSOGIEを持つ、あるいは関係のあるすべての子どもたちの権利擁護のために活動していますii 。
■差別のない環境は子どもの権利の基礎
すべての子どもは、差別されることなく、安全で尊厳が守られる環境で生きる権利を持っています。しかし現実には、SOGIEに関連して、多くの子どもたちがいじめや排除、暴力、家庭や学校での理解の欠如、教育・保健サービスへのアクセスの妨げなどの困難に直面しています。
認定NPO法人ReBitが2025年に公開した調査結果iii によると、日本国内において、LGBTQ中高生の約9割が過去1年間に学校での困難やハラスメントを経験。具体的な困難の上位には、「生徒からLGBTQでないと決めつける言動」(63.7%)、「先生からの不要な男女わけ」(46.2%)、「生徒からLGBTQをネタ・笑いものにされた」(43.9%)が報告されました。うち約95%の中高生が、「相談できると思えなかった」「他の先生や保護者に勝手に伝えられてしまうのではと不安だった」などの理由で担任に相談ができていません。さらに、安心して相談できる人・場所がないことが、自殺念慮・自殺未遂・自傷行為にも影響していることが調査の結果明らかになりました。これらは「個人の問題」ではなく、社会に根強く存在する社会規範や偏見によって生み出される差別や不平等です。
とりわけ子どもは、自らの環境を選択したり変えたりすることが難しい場合が多く、彼らの声が十分に尊重されていないことも少なくありません。だからこそ、子どもと関わる大人が理解を深め、包摂的な環境をつくることが大切です。
■なぜSOGIEを正しく理解し、大切にすることが子どもの権利につながるのか
子どもの権利条約に掲げられる権利は、すべての子どもに等しく適用されます。性的少数者であるLGBTQ+の子どもたちにとって特に重要な原則として、以下があげられます。iv
● 第2条 差別の禁止
どのような背景であっても差別されない権利があります。
LGBTQ+の子どもたちは、権利侵害や暴力のリスクが高く、特別な配慮や支援が必要な場合があります。
● 第3条:子どもの最善の利益
子どもにとって最も良いことが優先されるべきです。
しかし、「子どものため」という名目で、LGBTQ+に関する情報へのアクセスが制限されたり、いわゆる「矯正」を正当化するためにこの原則が誤用されることもあります。
● 第6条:生きる権利・育つ権利
安全に生き、健やかに成長する権利があります。
暴力からの保護、教育や医療を受けられることに加え、自分のアイデンティティが尊重されることが不可欠です。
● 第12条:意見を表明する権利
自分に関わることについて意見を表明し、その意見が聞かれ、尊重される権利があります。
性のあり方や表現についても、子ども自身の声が尊重される必要があります。
■子どもを取り巻く環境全体に働きかける
子どもの権利が尊重される社会を実現するためには、個人の特性だけでなく、周囲の環境との相互作用に目を向けることで、より明確に課題が見えてきます。子どもを取り巻く環境は「個人・コミュニティ・社会」の3層で相互に影響し合っています。LGBTQ+の子どもたちの場合も、差別や排除はこの複数の層の中で重なりあって生じています。そのため、いずれか一つではなく、すべてのレベルでの包括的な取り組みが必要です。
それぞれの層で、どのような影響があるのかを見ていきますv 。
● 個人レベル:社会的な規範が子どもの自己認識や内面に与える影響
・ 社会にある「異性愛が当たり前」「性別は男女のみ」という規範が、子どもの自己理解に影響。自分を否定的に捉えてしまうことにつながる。
● コミュニティレベル:学校や家庭、友人関係における日常生活への影響
・ 学校でのいじめやからかい、教師の無理解。家庭での否認や沈黙(「意図的に話題にしない」ことも排除につながる)
● 社会レベル:制度や文化が子どもの機会や権利に与える影響
・ 婚姻、性別変更など法制度の不十分さ
・ メディアや文化におけるステレオタイプ
このように、課題はそれぞれの層で発生し影響し合っています。個人への啓発やエンパワメントに留まることなく、家庭や学校、地域、社会の文化や意識を変えるための啓発活動に加え、制度の改善を働きかけることが、一人ひとりの権利が守られる社会の実現に繋がります。
これらを具体的な行動に移すとき、私たちは子どもを中心としたアプローチであることを大切にしています。当事者である子どもの声や経験を尊重し、守られる存在ではなく「主体」として共に考え行動します。これは、当事者の子どもたちにとって安全で包摂的な環境を作ることにつながります。さらに、SOGIEに加え、貧困、障害、民族、家庭環境などが重なることで、子どもたちが直面する課題はより複雑になります。こうした複数の要素が重なり合う経験(交差性)を踏まえ、一律の支援ではなく、多様な背景を考慮した関りや働きかけを行いますvi。
■学びを広げる:LGBTQIに関するeラーニング
セーブ・ザ・チルドレンでは、LGBTQIと子どもの権利に関するeラーニングコンテンツを英語で公開しています。
このeラーニングは、子どもの権利に関わる支援者が、LGBTQIの視点を実践に活かすための知識・自信・モチベーションを高めることを目的としています。内容は国際的な人権文書や研究に基づいて構成されています。
Proud to stand with every child- Introduction to children’s rights and LGBTQI (作成:セーブ・ザ・チルドレン・ユース・スウェーデン、セーブ・ザ・チルドレン・スウェーデン)
このコンテンツでは、基本的な概念の理解に加え、子どもの権利との関係、子どもたちが日々直面している課題、対応のヒントを、コミュニティの子どもたちから集めた実際の声を通じて学ぶことができます。
■私たちができること
子どもたちが「自分はここにいていい」と感じられるために、大人にできることはたくさんあります。今すぐにできる行動をあげてみましたvii 。
• 子どもの話に耳を傾ける
• あらゆる家族の形態がある前提で話をする
• 相手のSOGIEを推測で判断しない
• どのような呼び名で呼ばれたいか、尊重をもって確認する
• 本人の意思とプライバシーを守る
• 性別にとらわれない言葉遣いを意識する
• 蔑称(になりうる言葉)を使わない、使わせない
• 差別的な言動やいじめを見過ごさず、声を上げる
• 子ども自身に「どんな環境が安心できるか」アイディアを尋ねる
• LGBTQ+が機会を平等に得られることができるように、自分のコミュニティに働きかける
一度の関わりですべてが変わるとは限りません。しかし、小さな行動の積み重ねが、コミュニティにおいての子どもたちの安心感や自己肯定感、そしてメンタルヘルスに大きく影響します。大人自身が学び続け、多様なSOGIEを肯定的に捉える文化を広めていくことが、子どもたちの安全と安心を支えます。
私たちはこれからも、すべての子どもが尊厳をもって生きられる社会の実現に向けて、パートナーやコミュニティとともに取り組みを続けていきます。
このプライド月間を、子どもたちの権利について考え、できることから行動するきっかけにしてみませんか。
※本ブログでは、LGBTQ+の表記を基本としていますが、文献を引用する際は、原典の表記を尊重しています。
DEIタスクチーム
i Save the Children’s Sexual Orientation and Gender Identity and Expression (SOGIE)Policy Position
ii Save the Children’s Sexual Orientation and Gender Identity and Expression (SOGIE)Policy Position
iii 【LGBTQの子ども若者、約5千名の調査公開】過去1年に、中高生の9割が学校で困難やハラスメントを経験し、うち64%は教職員が要因。10代の57%が自殺念慮を経験する等、喫緊な状況が明らかに。 | 認定NPO法人 ReBitのプレスリリース。対象:LGBTQユース(12〜34歳)。
iv 子どもの権利条約 | こどものケンリ; Proud to stand with every child- Introduction to children’s rights and LGBTQI
v Proud to stand with every child- Introduction to children’s rights and LGBTQI
vi Save the Children Gender Equality Policy: Transforming Inequalities, Transforming Lives
vii Proud to stand with every child- Introduction to children’s rights and LGBTQI




